ロンドンオリンピックも終りました。日本人選手の活躍は、やはりリアルタイムで
画面を見ていると、さほど関心のない競技でもワクワクするものです。
そして、結果が3位以上のメダルとなりますと、ヒトゴトながらホッとした気分にもなります。
何十人の選手が、国と自分の人生の未来をかけて競うのですから、
冷静に考えれば一勝するだけでも大変なことに思えます。
そして、その中で上位3人に入ることになれば、大変を通り越して、ただ唖然となるのが
正直なところです。
何度目かの挑戦でメダルに届いた選手も多かったのですが、当たり前ですが、
「何をやるにしても10年」という法則です。
オリンピックに日本代表として出場するのですから、周囲から見ても、
才能があると思われる人達ばかりです。
そんな才能のある人達でも、10年以上の時間をかけねば、メダルにも届かない。
まして、筆者のようなこれといった才能もない人間にとっては、何をやるにしても
10年どころか、何をやるにしても20年となるかもしれません。
筆者もそうなのですが、勝った人、成功した人を見たり、話しを聞いたりすると、
ついつい、その人がアッと言う間に勝てる人になれた、成功したと思ってしまいます。
勝った結果人生はどう面白くなったのか、成功した結果、どれほどの財を得たか、
世間から注目される人生はどれほど楽しいかと、考えてしまいます。
ついつい、見落としてしまうのが、その結果を得るまでの「不安」と共に歩む長い時間です。
「不安」という言葉を聞くと、マイナスのイメージを持つ人がいるかもしれません。
出来ることなら「不安」などいうことから無縁でいたいとなります。
オリンピックメダルに届いた人生は、まさに「不安」との付き合い方のエキスパート
のような気がします。
筆者がかけ出し記者のとき、大先輩の大物記者が、「時々、〆切りなのに原稿が真っ白
という夢を見て、夜中に眼を覚ますことがある」と言っていました。
新人記者からしたら、雲の上のような存在の大実力記者です。
その大実力記者が、原稿を書けないのではという不安を持っているということに
ビックリしました。
あれほどの実力があれば、簡単に良い記事を書けるに違いないと勝手に
思っていたからです。
そして、ある時です。副編集長になって、自分より年齢が上の記者を部下に持ったときです。
あまりいい原稿書けないと思っていたベテラン記者が、「自分が書いた原稿の中で、
年に何本かはいい記事だったなというのがあるね」と言ってました。
まさに、「不安」とは無縁の人という印象を持ちました。
この二つのことから、筆者が自分なりに得た教訓です。
「実力がつくほどに不安は増す」というセオリーです。
つまり、「不安」こそ実力を上げ、より上の結果をだしていく原動力かと思うようになりました。
「不安」はあって当たり前、逆に「不安」が無ければ、「自分は大丈夫か」と心配した方が
良いのではと思うようになりました。
レベルが上がれば「不安」は大きくなる。
前述のオリンピック選手のレベルは、日本でトップクラスのレベルです。
ですから、それぞれの「不安」も、それだけ大きいことになります。
「いくら練習してもタイムが上がらない。もう能力の限界なのだろうか」、
「日本ではトップだが、世界の選手を相手に、互角以上の試合を出来るだろうか」。
「メダルは当たり前といわれているが、この力で本当に勝てるのだろうか。
ライバル達も、この1年でさらに力をつけているに違いない」
まさに、「不安」がトレーニングウェアー着て練習しるというわけです。
筆者は勝手に思い込んでいるのですが、日本人の中で「不安」のトップクラスは、
大リーグで活躍するイチロー選手ではと思っています。
昨年までは打てたけど、ほんとうに今年も打てるのだろうか。
昨日まで打てたけど、今日も打てるのだろうか。その実績のレベルも中途半端では
ありません。レベルが上がれば、「不安」は大きくなる。
もしかしたら、イチロー選手のレベルは、オリンピック選手どころではないかも
しれません。
何故、こんなことを考えたか。どうやっても「不安」は消えません。
まして、仕事で新しいことに取り組むときなどは、「不安」だらけです。
会社の社長をしているときは、さらにその「不安は」増します。
1つの失敗が、全員の運命に対して、とんでもない結果をもたらすのではという事になります。
申し訳ないではすまないこともあり得ます。
そんなとき、少し、自分を励ますのが、「あのイチロー選手の「不安」に比べたら、
自分の「不安」など大したことではない。とにかくやるしかないだろう」という考えです。
何度も同じことを言うのですが、何をやるにしても、「不安」はつきものです。
逆に「不安」がない方が心配です。そして、自分の「不安」です。
簡単には消えません。しかし、こっそり自分を励ますことはできます。
「あのオリンピック選手に比べれば、自分の「不安」など小さい小さい」
「あのイチロー選手のレベルの「不安」に比べれば、今の自分の「不安」など
大したことではない」。
何か機会があれば、メダルに届いた人達の「不安」との10年、20年のつき合い方を
聞いてみたいものです。
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1947年 4月 東京都生まれ |